2009-01-01から1年間の記事一覧

渡辺崋山旧蔵蘭書(19)

[37] 阿蘭陀字引之写 欠本 五冊 不明。 [38] 魯西亜文字之写 弐冊 未詳。文化四、五年のいわゆる文化露寇事件に関するロシア語文書の写しかもしれません。渡辺崋山と交流のあった古河藩家老鷹見泉石関係資料に露寇事件に関するロシア語文書があります。『鷹…

渡辺崋山旧蔵蘭書(18)

[35] イスホルディング(人名)究理書写 弐冊 但三才究理之書ニ御座候イスフォルディング『医学生のための理学提要』J.N. Isfording, Natuurkundig handboek voor leerlingen in de heel- en geneeskunde. Amsterdam, C.G. Sulpke, 1826. 8vo, xxii, 184 pp.…

渡辺崋山旧蔵蘭書(17)

[32] 文法之書 壱冊 未詳。(昨日、本項目を抜かしておりましたので、ここに補います) [34] 医事雑記 壱冊 未詳。雑誌の端本とすれば次の雑誌が候補となるでしょう。 (1) H. de H.レモン編『アルティ・サリュティフェラアエ学会医事雑報』 Geneeskundige me…

渡辺崋山旧蔵蘭書(16)

ここで追記を3つ、書いておきます。 <追記その1> キリストの名目について この山路弥左衛門の目録「三十三」番(ここでは私に[33]と表記)の「政事書」項目では、欄外に「御用出」の書き入れと、「キ」の字を○印で囲んだ記号が付けられています。この記…

渡辺崋山旧蔵蘭書(15)

[33] 政事之書 但右書中ニキリスト之名目有之候得共教法之書とも相見不申候オランダの抒情作家にして詩人のレインフィス・フェイトRhijnvis Feith (1752-1824)の『テイラー神学協会賞受賞論考』Verhandelingen van Mr. Rhijnvis Feith, bekroond bij Teylers…

渡辺崋山旧蔵蘭書(14)

[31] 草木禽獣究理日記 欠本 同[小] 壱冊小本の博物誌といえば、子供向きの『豆本ビュフォン博物誌』Buffon in miniatuur; of, natuurlijke historie voor de jeugd. Amsterdam, Westerman, [1827]. 5 vols.を挙げることができます。しかし、「究理日記」と…

渡辺崋山旧蔵蘭書(13)

[30] 書札文言之書 同[小本] 壱冊未詳。手紙文例集の類でしょう。法令書式集は19世紀前半までのオランダ語でformulierboekとかpapegaai(オウムの転義)といいます。online catalogueで検索してみますと、四つ折り判が殆どです。18世紀オランダでよく使われ…

渡辺崋山旧蔵蘭書(12)

[29] ボイセン(人名)内科書 小本 壱冊ボイセン『医学の実践』Henricus Buyzen, Practyk der medicine.です。崋山旧蔵本の版種は不明です。 杉田玄白『蘭学事始』(1815成)は、中津藩主奥平昌鹿(まさか)が本書を藩医前野良沢に与えた逸事を次のように伝え…

渡辺崋山旧蔵蘭書(11)

[16] 内外薬剤及産科書 欠本 壱冊 [17] 治療書 欠本 壱冊いずれも未詳。 [28] 阿蘭陀出張所雑記 欠本 巻二 nederlandsche bezittingen in azia, amerika en afrika 壱冊ファン・デン・ボス『アジア・アメリカ・アフリカにおけるオランダ海外領土』Johannes v…

渡辺崋山旧蔵蘭書(10)

[25] バタヒヤ(地名)諸雑記 第十三巻<欠本> verhandelingen van het bataviaansche[sic] genootschap 壱冊 『バタヴィア学芸協会論叢』第13巻Verhandelingen van het Bataviaasch genootschap van kunsten en wetenschappen. 13de deel, Batavia, Lands …

渡辺崋山旧蔵蘭書(9)

[22] ヘッケル(人名)之淋病治療書 hecker en kirchner, over de gonorrhoea 壱冊GBSを検索すると、『オランダ学芸雑誌』Algemeene Vaderlandsche letter-oefeningen. 1804年版p. 584に本書初版の書評が掲載されています。それによれば、本書の書名と書誌情…

渡辺崋山旧蔵蘭書(8)

[17] 文学之叢書 千八百二年 壱冊 [18] 同断 一千八百三年 壱冊 [19] 同断 年号無之 vaderlandsch leteoeffeningen, of tydschrigt van kunstte en wetenschappen. Vor april 四冊 1818、1824、1830先に掲げられた[14]と同じ『オランダ学芸雑誌』Vaderlandsc…

渡辺崋山旧蔵蘭書(7)

[16] 究理書二童問答 三才究理書ニ御座候 同 壱冊 「究理書二童問答」とは幕末、特に安政年間、黒船ショックで蘭学ブームが巻き起こった頃、各地の蘭学塾で「ヘンチーヤンチー」と呼ばれてよく使われた理科入門書のことです。この「ヘンチー」「ヤンチー」は…

大黒屋光太夫の新出肖像画

昨年12月某日、京都の骨董展示場で「紅毛人図」なるものに出逢いました。異様な雰囲気を漂わせた泥絵風の色づかい。等身大とはいきませんが大型の肖像画です。売り主か店主が「紅毛人図」と思ったのも無理はありません。しかし、私の目には、すぐに大黒屋…

渡辺崋山旧蔵蘭書(6)

[14] 文学之叢書<千八百二十刊行>メンゲルウェル <壱>七冊 但天文地理文章等之雑記ニ御座候 『オランダ学芸雑誌』Vaderlandsche letter-oefeningen, of tijdschrift van kunsten en wetenschappen. Amsterdam, 1814-1876. の1820年刊行分の端本と思われま…

渡辺崋山旧蔵蘭書(4)

[9] 諸学手引之書 欠本 巻三 Algemene ofen school (続)『学芸入門叢書』Algemeene oefenschoole van konsten en weetenschappen. Amsterdam, Pieter Meijer, 1763-1782. 31 vols.の端本3冊が京都大学附属図書館「新宮本」(新宮凉庭旧蔵書)に伝わってい…

渡辺崋山旧蔵蘭書(5)

[13] クェトレット星学書<ロバルト天文書> 同 弐冊ケトレ『天文学基礎』蘭訳。本書はベルギーの統計学者として名高いケトレLambert Adolphe Jacques Quételet(1796-1874)が統計学者として活躍する以前に著した天文学入門書です。私は日本最初の西洋哲学史…

渡辺崋山旧蔵蘭書(3)

[6] アンソン(人名)世界一周紀行<書> 一冊 (続)本書の第3版(1765)は阿蘭陀通詞楢林重兵衛旧蔵本が平戸藩楽歳堂文庫(松浦静山旧蔵)につたわっています。初版(Amsterdam, Isaak Tirion, 1748)は江戸幕府旧蔵書として国会図書館に伝わっていますが…

渡辺崋山旧蔵蘭書(2)

昨日書いたように、天保9年5月、幕府天文方山路弥左衛門が天文台詰蘭学者の宇田川榕菴、杉田立卿、杉田成卿に渡辺崋山所持蘭書の取調目録を作成させました。天保14年2月2日に天文方見習兼御書物奉行渋川六蔵敬直(ひろなお)がこの目録を写し、「直」の字…

渡辺崋山旧蔵蘭書(1)

財団法人崋山会の『崋山会報』第22号(4月11日発行)に「客坐掌記(天保三年)に描かれた肥満英国人」と題する一文を寄せました。田原市博物館所蔵の客坐掌記(天保三年)原本を今春初めて閲覧する機会を得ましたので、崋山がそのなかに模写した肥満英国人図…

前野良沢使用のビグロトン

前野良沢が「仁言私説」で、「ビグロトン」(「ビクロットン」「ヒグロトン」とも)と呼ぶ辞書は、マルティヌス・ビナルトMartinus Binnartの蘭羅辞典ですが、版種が極めて多く、良沢使用の版種を確定するのに大変手間がかかりました。2000年4月7日、ブラバ…

ヤンロウイス探訪記

前野良沢は儒教の基本的概念である「仁」に対応するオランダ語がBarmhartigということを阿蘭陀通詞吉雄耕作(幸左衛門)の訳で知ったことから、その類義語を「キリアヌス」、「ヤンロウィス」「ビクロットン」「マリン」など数種の辞典によって調べ尽くし、…

F. ハルマ刊『簡約世界』の天使

江戸時代に編纂された蘭和辞典『ハルマ和解』や「ドゥーフ・ハルマ」はオランダ人書店主フランソワ・ハルマFrançois Halma(1653-1722)が編纂出版した『蘭仏辞典』第2版(1729)の翻訳です。辞書編纂は古今東西を問わず、先行辞書の増訂や翻訳によることが…

万香亭のエンゼル観

万香亭は富山藩主で本草学者であった前田利保(1800〜1859)の号です。この号を彫り込んだ瓢箪形の印を捺した「engel」図が伝わっています。明らかに蘭書からの模写図です。原図は空中に浮かぶ二人のエンゼルが左右から何かを支えもっているはずですが、模写…

笛を吹くエンゼル

4月5日の日記「舶載蘭書の天使」で、山村才助『西洋雑記』(1807年までに成る)から次の文を引用しました。書籍の首に其選者の像を描き、傍に「エンゲル」(羽翼ある天人)を図し或は笛を吹く形あるハ「ヱンゲル」の遠く飛び笛声の遙に聞ゆるが如く其撰者…

前野良沢のメイエル『語彙宝函』抄訳

『前野良沢資料集』第二巻の贈呈を受け、所収の「和蘭説言略草稿」(寛政二年、1790成、底本は早稲田大学図書館蔵)を目にして思わず恥ずかしい気持ちになりました。というのも、先頃発表した拙文「高峰元稑旧蔵蘭文写本について(一)」(北陸医史 第31号…

前野良沢資料集 第2巻

昨日、今年度の授業が始まりました。開花が例年より早く、もう葉桜がちらほら。年々歳々花相似たり、歳々年々人同じからず。この詩句は今から230年近く前に、オランダ語訳されました。訳を頼んだのは平戸藩主松浦静山。訳したのは静山と親密な交流をもっ…

蘭英漢対訳辞典のエンゼル

阿蘭陀通詞吉雄権之助(1785-1831)は晩年にモリソン『英華辞典』Robert Morrison, A Dictionary of the Chinese Language. Part III. Macao, London, 1822. をもとに「蘭英漢対訳辞典」を編纂しました。engelの訳語を、その佐久間象山旧蔵本(真田宝物資料館…

蘭和辞典の天使

江戸時代に編纂された各種蘭和辞典で、「エンゲル」の訳語に「天使」があるかどうか、調べてみましょう。ハルマ『蘭仏辞典』(1729)を翻訳した最初の蘭和辞典『ハルマ和解』(「江戸ハルマ」とも、寛政8年、1796)では、engel. z.m. 神ノ使シメ engeragtig…

舶載蘭書の天使

天使のことをオランダ語でengelといいます。原音に近い表記はエンヘルですが、蘭学者たちはエンゲルと呼んでいました。阿蘭陀通詞や蘭学者たちにとって、「エンゲル」はある意味で身近な存在でした。というのも、彼らが目にする蘭書の口絵や地図の装飾にはし…