勉誠出版『キリシタン版日葡辞書カラー影印版』

勉誠出版キリシタン版日葡辞書カラー影印版』(2013年1月20日刊行)が届いた。オックスフォード大学ボードレイ文庫本Bodleian Library,[Arch.B.d13]の原色・原寸大複製だ。鮮明な印刷には満足。日葡辞書の門外漢には大変ありがたい。

専門家向きの影印版であれば、解題に原本の書誌的記述があってしかるべきと思うのは、私だけではないだろう。思い切って購入したのに、期待はずれであった。末尾に原本テキストの200%拡大版4ページ分が掲げられているだけに、キリシタン版印刷史の専門家による解説が欲しかった。高精細デジタル画像によるとはいえ、料紙の紙質、風合いは分からない。フォリエーションのアラビア数字の組み方が微妙に異なるのが面白かった。天地逆になっているところがあるはずだと丁を繰っていった。案の定、95.とあるべきところが65.となっていた。

さっそく『邦訳日葡辞書』(土井忠生・森田武・長南実編訳、岩波書店)とパジェス日仏辞典(一誠堂書店、1953)を取り出して、あちこち見比べて楽しんだ。

fol.176 recto (363ページ)の右下余白のペン書きが目に入る。Nanban.Minamino yebisu.項目への書き込みである。書き込みの最後に、nan,sul.ban,barbaros.(ナンは南、バンは野蛮)と書かれているが、そのあとの語句が読めない。同じボードレイ文庫本を底本にした『邦訳日葡辞書』の該当項目には、

nan,sul.ban,barbaros・・・(以下不明)

とあり、解読を試みる。不明部分は最初barbarosの同義語であるgrosseiro(卑俗、下品)の書き誤りかと疑ったが、日本人の手ではなさそうなので書き誤りとは言えないと思い、あれこれ思案。結局、分かってみれば何のことはない。gocu,reino(ゴクは国)と書かれているのだ。つまり、本文中のNanbangocu.(南蛮国)への注解であった。もっとも、この部分は専門家がすでに解読しており、門外漢の独りよがりかもしれない。