藤塚知明誕生地、雄勝町大須浜再訪

東北関東大震災で壊滅的被害を受けた雄勝町をこの夏、やっと再訪することが出来た。目的は、藤塚知明の誕生地、大須浜の庚申塚が無事であるか、確かめることだった。2003年1月11日に訪ねたとき、その表面に 「天地同根万物一体 大性院 庚申塚 元文五庚申…

本木家文書の万国図説

長崎文化博物館の本木家文書は阿蘭陀通詞本木良永・正栄父子の遺した通詞蘭学資料の宝庫である。そのなかの写本「万国図説」の典拠について、新しい知見をえたと思う。すでに先達によって指摘がなされていれば不明を恥じるしかない。 「万国図説」(題簽によ…

勉誠出版『キリシタン版日葡辞書カラー影印版』

勉誠出版『キリシタン版日葡辞書カラー影印版』(2013年1月20日刊行)が届いた。オックスフォード大学ボードレイ文庫本Bodleian Library,[Arch.B.d13]の原色・原寸大複製だ。鮮明な印刷には満足。日葡辞書の門外漢には大変ありがたい。専門家向きの影印版で…

オランダ通詞中山家の洋印

ずいぶん以前、十年ほど前だったか、古渡りの蘭文兵書、ヤン・ヘンドリック・ファン・キンスベルヘン(1735-1819)の『海軍士官提要』Jan Hendrik Kinsbergen, Zeemans hand-boek. Amsterdam, 1782.を調査する機会があった。著者は第4次英蘭戦争の際、ドッガ…

東北関東大震災被災地の洋学資料(下)釜石市鉄の歴史館の大島高任旧蔵蘭書

2003年10月2日、岩手大学工学部小野寺英輝先生の案内で、釜石市立「鉄の歴史館」において、以下の大島高任(1826-1901)旧蔵蘭書5点を調査できた。今回、釜石市市街地は大地震のために壊滅的な被害を受けた。小野寺先生は3月18日に現地入りし、「鉄の歴史…

東北関東大震災被災地の洋学資料(中)藤塚知明の誕生地雄勝町大須浜

(上)池田文庫洋書管見 補遺 14bis. Templeton, William, Werktuigkundig handboek; bevattende parktische regels en tafels, toepasselijk op land- boot- en locomotief- stoomwerktuigen. Vertaald door F.G. Wente uit het Engelsch. Amsterdam, C.L. …

東北関東大震災被災地の洋学資料(上) 池田文庫洋書管見

このたびの東北関東大震災の被災地のうち、気仙沼市本吉町大谷と石巻市雄勝町大須および釜石市は8年前の2003年に調査した地域である。いずれも甚大な被害をこうむり、亡くなられた方々の無念を思うと胸が痛む。冥福を祈るばかりである。当時調査した資料が無…

前田慶寧の天満信仰と洋学

3月6日啓蟄。午後、妙心寺塔頭光國院にある本草家松岡恕庵の墓に参った。砂岩に「文長先生松岡君之墓」とのみ彫られ、「岡」の文字は破損。昨年、恕庵門人小野蘭山の没後二百年記念事業をおこなった際に恕庵のご子孫と出会い、その縁によりご子孫に案内さ…

生理学書の蘭文写本

名雲書店からホームページhttp://www.nagumosyoten.jp/開設の案内状が届いた。さっそくのぞいてみると、「名雲電子待賈古書目録」が「和本の部屋」「西洋学の部屋」「医学の部屋」など18の部屋に分かれていて、どの部屋から入ってもよい。「医学の部屋」を開…

出島蘭医の肩書き

出島のオランダ商館員名簿をみていて、オランダ人医師の肩書きが気になっている。officier van gezondheid(オフィシール・ファン・ヘゾントヘイト)という肩書きである。これはフランス革命期に生まれた新しい名称 officier de santé(オフィシエ・ド・サン…

幕末生け花書の蘭文賛

幕末の蘭学は時代の要請を受けて医学から兵学中心へと大きな転換をみせたが、医学、兵学の基礎学としての生理学、理学の普及を忘れてはならないだろう。幕末京都で蘭学塾時習堂を開き、佐野常民、陸奥宗光らを教えた広瀬元恭(1821-1870)はそうした基礎学を…

狩野文庫の蘭書(5)

5.シュミット『子供向き道徳話における細事の大切さ』Schmid, Christoph von (1768-1854) De waarde der kleinigheden, in zedelijke verhalen, voor de jeugd en derzelver vrienden. Door H. Ch. Schmid. Met platen. Te Amsterdam, bij Ten Brink & De …

狩野文庫の蘭書(4)

4.クラーメルス『一般外来学術用語通解』第2版Kramers Jz., Jacob (1802-1869) Algemeene kunstwoordentolk, bevattende : de vertaling en verklaring van alle vreemde woorden en zegswijzen, die in geschriften van allerlei aard, in de taal der s…

狩野文庫の蘭書(3)

3.クラーメルス『一般外来学術用語通解』第3版Kramers Jz., Jacob (1802-1869) Algemeene Kunstwoordentolk, Bevattende : De Vertaling En verklaring van alle vreemde woorden en zegswijzen, die in geschriften van allerlei aard, in de taal der s…

狩野文庫の蘭書(2)

(1)の記載に遺漏がありました。『オランダ王立兵学校略年鑑 1851-1864』の標題紙にある「荒井泰治氏ノ寄附金ヲ以テ購入セル文学博士狩野亨吉氏旧蔵書」との印記に触れませんでした。東北帝国大学附属図書館(明治44年6月創立)では大正元年9月、仙台出身…

狩野文庫の蘭書(1)

東北大学附属図書館所蔵狩野文庫の洋書に含まれる蘭書は、全国に伝わる江戸時代舶載蘭書のなかでも極めて重要な位置を占めると思われますので、7年前に集中的に行った書誌調査をもとに、毎回1タイトルずつ取り上げ、書誌的記載と解説を加えていくことにし…

ベルリンの本草綱目和刻本

いまからもう20年も前、1990年8月6日〜8日に東ベルリンのウンター・デン・リンデンにあるDeutschen Staatsbibliothekを訪ね、古渡りの本草綱目を拝見したことがありました。ブランデンブルク選帝侯フリードリヒ・ウィルヘルムがベルリンの主席司祭Andreas Mu…

掛川天然寺のヘンミー墓碑文

静岡県掛川市仁藤(にとう)町の天然寺にある商館長ヘンミーGijsbert Hemmij (1747-1798)の墓を初めて訪れたのは、2003年5月9日でした。蒲鉾形の墓石表面に刻まれた蘭文は長年の風雨と苔のため判読がかなり難しい。墓の脇には、大正14年5月に建てられた巨大…

毛利高標所蔵の世界地図帳

必要あって、大分県の郷土史家今村孝次(明治8年生、昭和17年没)の遺著『二豊人文志』(朋文堂、昭和18)を見ると、「古簡集」と題した記事に、蔵書家として名高い佐伯藩主毛利高標が国許の藩士にあて、「佐伯は江戸とは違ひ火事も少いことだから先づ…

儒家小誌にみる蘭学者

最近、古書店で『書画鑑定必携 儒家小誌』(渡 俊治編、東京、文求堂、大正14年再版)を購入しました。初版は奥付を見ると、大正11年9月15日、丁度関東大震災の一年前に出ています。文求堂は中国古典籍の古書肆として有名でしたが、大震災後は中国語…

ドイケルスクロックの訳語

先日、蘭学者山田大円が小値賀(おじか)島の珊瑚採集実験に「ドイケルスクロック」(duikersklok)を使用したのではないかと推測しましたが、思わず「排気鐘」と誤訳してしまいました。正しくは「潜水鐘」です。訂正しておきます。ボイス『学芸百科事典』のdu…

小値賀(おじか)島と蘭学者

謹賀新年。昨年5月以来、ブログを離れていました。忙中の閑のつもりで気楽に書いてみることにすれば、今年は長続きするかもしれません。1月4日の朝日新聞、朝刊の一面に、シリーズ「日本 前へ」3として、「離島 探せば宝の山」の大見出しで、長崎県小値…

渡辺崋山旧蔵蘭書(19)

[37] 阿蘭陀字引之写 欠本 五冊 不明。 [38] 魯西亜文字之写 弐冊 未詳。文化四、五年のいわゆる文化露寇事件に関するロシア語文書の写しかもしれません。渡辺崋山と交流のあった古河藩家老鷹見泉石関係資料に露寇事件に関するロシア語文書があります。『鷹…

渡辺崋山旧蔵蘭書(18)

[35] イスホルディング(人名)究理書写 弐冊 但三才究理之書ニ御座候イスフォルディング『医学生のための理学提要』J.N. Isfording, Natuurkundig handboek voor leerlingen in de heel- en geneeskunde. Amsterdam, C.G. Sulpke, 1826. 8vo, xxii, 184 pp.…

渡辺崋山旧蔵蘭書(17)

[32] 文法之書 壱冊 未詳。(昨日、本項目を抜かしておりましたので、ここに補います) [34] 医事雑記 壱冊 未詳。雑誌の端本とすれば次の雑誌が候補となるでしょう。 (1) H. de H.レモン編『アルティ・サリュティフェラアエ学会医事雑報』 Geneeskundige me…

渡辺崋山旧蔵蘭書(16)

ここで追記を3つ、書いておきます。 <追記その1> キリストの名目について この山路弥左衛門の目録「三十三」番(ここでは私に[33]と表記)の「政事書」項目では、欄外に「御用出」の書き入れと、「キ」の字を○印で囲んだ記号が付けられています。この記…

渡辺崋山旧蔵蘭書(15)

[33] 政事之書 但右書中ニキリスト之名目有之候得共教法之書とも相見不申候オランダの抒情作家にして詩人のレインフィス・フェイトRhijnvis Feith (1752-1824)の『テイラー神学協会賞受賞論考』Verhandelingen van Mr. Rhijnvis Feith, bekroond bij Teylers…

渡辺崋山旧蔵蘭書(14)

[31] 草木禽獣究理日記 欠本 同[小] 壱冊小本の博物誌といえば、子供向きの『豆本ビュフォン博物誌』Buffon in miniatuur; of, natuurlijke historie voor de jeugd. Amsterdam, Westerman, [1827]. 5 vols.を挙げることができます。しかし、「究理日記」と…

渡辺崋山旧蔵蘭書(13)

[30] 書札文言之書 同[小本] 壱冊未詳。手紙文例集の類でしょう。法令書式集は19世紀前半までのオランダ語でformulierboekとかpapegaai(オウムの転義)といいます。online catalogueで検索してみますと、四つ折り判が殆どです。18世紀オランダでよく使われ…

渡辺崋山旧蔵蘭書(12)

[29] ボイセン(人名)内科書 小本 壱冊ボイセン『医学の実践』Henricus Buyzen, Practyk der medicine.です。崋山旧蔵本の版種は不明です。 杉田玄白『蘭学事始』(1815成)は、中津藩主奥平昌鹿(まさか)が本書を藩医前野良沢に与えた逸事を次のように伝え…