出島蘭医の肩書き

 出島のオランダ商館員名簿をみていて、オランダ人医師の肩書きが気になっている。officier van gezondheid(オフィシール・ファン・ヘゾントヘイト)という肩書きである。これはフランス革命期に生まれた新しい名称 officier de santé(オフィシエ・ド・サンテ)に対応するオランダ語であり、オランダのバタヴィア共和国時代(1795-1806)に導入されたと思われる。出島のオランダ商館名簿でこの肩書きが現れるのは、1817年10月〜1818年10月の名簿に、Gerrit Leendert Hagen / Officer van Gezondheidとあるのが最初である。このハーヘンは前年の名簿(1817年10月まで)にも名がみえるが、肩書きはChirurgijn der 3 classe(三等外科)である。その前任者フェイルケJan Frederik Feilkeの肩書きはOppermeester (上級医師)。
 医師以外の役職名が従来の名称を踏襲しているのに、医師の肩書きだけが1817年にofficier van gezondheidに変わっている。フランスでは革命期に内科医と外科医の区別(差別でもあった)を廃止し、統一の名称としてofficier de santéが生まれた。これは旧来の医学部を廃止して医学校(Ecole de santé)を創設した変革と密接な関係がある。出島医師の肩書きの変更は、フランスの影響下に進められたオランダ本国およびバタヴィアでの医学教育、医療制度の変革が極東の出島に及んだ結果と思われるが、その辺の事情については、今後の宿題にしておこう。