狩野文庫の蘭書(1)

東北大学附属図書館所蔵狩野文庫の洋書に含まれる蘭書は、全国に伝わる江戸時代舶載蘭書のなかでも極めて重要な位置を占めると思われますので、7年前に集中的に行った書誌調査をもとに、毎回1タイトルずつ取り上げ、書誌的記載と解説を加えていくことにします。

掲載の順序はほぼ排架順(分類順)とし、各タイトル毎に、書誌番号を付け、和訳書名(略標題に対応)、原タイトル(原則として完全表記)、その他の書誌事項、解説、狩野文庫の分類番号の順に記載します。



1. 『オランダ王立兵学校略年鑑 1851-1864』

Jaarboekje voor de Koninklijke Militaire Akademie. Eerste[-etc.] Jaargang 1851[-1864]. te Breda by Broese & Comp. 14 booklets in 1 vol. 164 x 112 mm. 

1851 : (22), 70 pp. 1852 : (20), 62 pp. 1853 : (16), 54 pp. 1854 : (20), 38 pp. 1855 : (18), 62 pp. 1856 : (16), 62 pp. 1857 : (16), 37 pp. 1858 : (18), 48 pp. 1859 : (16), 42 pp. 1860 : (20), 44 pp. 1861 : (20), 58 pp. 1862 : (16), 35, (4) pp. 1863 : (16), 32, (3) pp. 1864 : (18), 33, (3) pp.

1828年11月にブレダに創設されたオランダ王立兵学校(4年制)の年鑑。この兵学校は今日まで略称KMAでよばれることが多い。1827年11月に制定された『兵学校規則』Reglement voor de Koninklijke Militaire Akademie. ’s Gravenhage, Amsterdam, Van Cleef, 1828. をみると、教官組織、教職員給与、教職員の職務規程、服装規定、カリキュラムなどを全371条にわたって定めている。第1回入学生(士官候補生)308名は、歩兵186名、砲兵52名、騎兵40名、工兵15名、利水兵4名に振り分けられた。授業時間は各学年とも、冬期、週75時間、夏期、週81時間。科目は兵科、数学、理科、歴史、地理、語学(オランダ語、仏英独語)、倫理、図学、調練、体操、自習・宗教などがあった。週時間には食事・余暇の9時間が含まれていた。冬期は午前8時始業、午後8時30分終業、夏期は午前7時始業、午後8時30分終業。

幕府がオランダ政府の支援を受けて行ったいわゆる長崎海軍伝習(安政2年〜6年、1855〜59)のカリキュラムを検討する上で、『略年鑑』は極めて重要である。また、『略年鑑』にはKMA編纂の教科書リストが、1855、1857〜1869の各「略年鑑」に掲載されている。これらの教科書は佐賀藩や幕府が争って大量に購入したものである。刊行者のBroese & Comp.社はKMA教科書の印刷を長年にわたって、ほとんど一手に引き受けていた。

長崎海軍伝習で実施された科学技術教育のルーツとして、ユトレヒト軍医学校の医学教育とともに、ブレダのオランダ王立兵学校で行われた文理基礎教育も視野に入れる必要がある。幕末舶載蘭書の総合目録(完全版はまだない)と『オランダ王立兵学校蔵書分類目録』Systematische catalogus van de Bibliotheek der Koninklijke Militaire Akdademie. Breda, Broese & Comp., 1840. Id., Eerste supplement, 1846 ; Tweede supplement, 1851.との比較は興味深いだろう。[狩IB 31-4]