渡辺崋山旧蔵蘭書(9)

[22] ヘッケル(人名)之淋病治療書 hecker en kirchner, over de gonorrhoea 壱冊

GBSを検索すると、『オランダ学芸雑誌』Algemeene Vaderlandsche letter-oefeningen. 1804年版p. 584に本書初版の書評が掲載されています。それによれば、本書の書名と書誌情報は以下の通り。

Duidelyke Aanwyzing, om de verschillende zoorten der Gonorrhoea naauwkeurig te onderscheiden, en behoorlyk te behandelen. Tot aanpryzing eener nieuwe Geneeswyze, voor beginnende Genees- en Heelkundigen. Naar het Hoogduitsch van Dr. A. F. Hecker, Hofraad en Hoogleeraar der Geneeskunde te Erfurt. Uitgegeven door J. W. Kirchner, Med. Doct. te Amsterdam. Te Amsterdam, by L. van Es, 1804. In gr. 8vo. 240 bl.
(淋病の様々な種類を精密に鑑別し適切な治療を施すための明解な指針。新参の内科医や外科医に新治療法を推奨するために。エールフルト宮廷顧問・医学教授A.F.ヘッケル博士のドイツ語より。アムステルダム医師J.W.キルヒナー編。アムステルダム、L.ファン・エス書店刊。八折り大判、240頁。)

「hecker en kirchner, over de gonorrhoea」の書名は、原本の背表紙またはハーフタイトルから取られたものでしょう。同じくGBS掲載、売り立て目録Catalogue des livres de ... A.M.H. Boulard. Paris, 1828.の1185番に、Hecker en Kirchner, Over de Gonorrhoea. gr. 8. Amsterd. 1812. br.
と見えます。

本書の初版および第2版(1812)はアムステルダム大学図書館online catalogで検索できます。それによれば、ドイツ語原書はDeutliche Anweisung die venerischen Krankheiten genau zu erkennen und richtig zu behandeln. – 1791とのことです。


[23] 紀行書 ストックホルム(地名)刊行 壱冊

「紀行書」「ストックホルム(地名)刊行」とのみ記されていることから、蘭書ではなくスウェーデン語の旅行記である可能性が高いと思います。日本関係のスウェーデン語で書かれた旅行記といいますと、第一にツュンベリー『欧亜紀行』Carl Peter Thunberg, Resa uti Europa, Africa, Asia. Upsala, Joh. Edman, 1788-1793.がありますが、刊行地はストックホルムではなくウプサラの刊行ですので、候補にはなりません。

さらにさかのぼってウィルマン『東インド・中国・日本紀行』Oloff Erickson Willman, Reesa till Ost-Indien China, och Japan.を収録したキョッピング編『日本紀行集』N.M. N.M.Kiöping, Een kort Beskriffning Uppă Trenne Resor och Peregrinationer sampt Koningarijket Japan. Wisingsborgh, 1667.はおよそ江戸時代に日本で知られていたとは思えません。しかも、刊行地はストックホルムではありません。

日本関係の旅行記は諦めて、敢えて「紀行書」の候補を挙げてみましょう。
リンネ『スカンジナヴィア紀行』Linnaeus, Skänska resa. Stockholm, 1751.
パールマン喜望峰紀行』Anders Sparrman, Resa till Goda Hopps-udden. Stockholm, 1783-1818.
ゴッセルマン『南北アメリカ紀行』Carl August Gosselman, Resa mellan Södra och Norra Amerika. Stockholm, 1833.


[24] ヒュブ子ル(人名)地理略説 小本 壱冊

阿蘭陀通詞本木良永は明和8年(1771)冬12月に「地図略説」を抄訳したのですが、その原書は良永自身が末尾に「和蘭暦数一千七百二十二年当テ板セルゼオカラーヒート云ル地理書ヨーハンヒユブ子ルト云ル者ノ編メル処ロ地図用法ノ説 明和辛卯冬十二月」と記していますので、ヒュブネル『古今地理略説』第3版Johan Hubner, Kort begryp der oude en nieuwe geographie. Amsterdam, Nicolaas ten Hoorn, 1722.と分かります。

古渡り本としては幕府の楓山文庫および蕃書調所旧蔵の第5版(Utrecht, Jacob van Poolsum; Amsterdam, Joh. Cóvens en Cornelis Mortier, 1736)がありますが、未見です。
ライデン大学図書館online catalogusで本書の初版(Amsterdam, 1707)、第4版(Amsterdam, de Wetsteins en Smith; Utrecht, Jacob van Poolsum, 1729)を確認できます。またアムステルダム大学のonline catalogusでは、第2版(Amsterdam, Nicolaas ten Hoorn, 1711)、第3版、第6版(Amsterdam, Cóvens en Mortier, en Joh. Cóvens, Junior, 1758)を確認できます。初版(Amsterdam, Nicolaas ten Hoorn)は国際日本文化研究センターも所蔵します。ただし、これは古渡り本ではありません。

今、私が利用しているのは、第5版です。オクターヴォ版、頁立ては、(126), 764, (60) pp.です。この第5版は、標題紙のあと、ドイツ語版第6版による著者の前書きが来ます。その後の構成は以下に示しましょう。地図の図版は一切ありませんが、各章が地図の説明になっており、巻末に「本書の活用法」として最良地図の目録が掲げられているのが特徴です。その地図の多くは版元のコーフェンス・モルティール社発行の地図です。すなわち、本書は、各国図や世界地図帳を利用するためのハンドブックとして編集されています。詳しい地名、国名、地域名の索引があるのもそのためでしょう。目次はありません。便宜上、私に部立てを[ ]内に付けました。

[第?部] 地図の基礎知識入門 (80) pp.
[第?部]非ドイツ語圏の古今地理・地図略説(との部立てになっていますが、ドイツの章も含みます)
序 pp. 1-2.
第1章 世界地図の基礎知識 pp. 3-10.
第2章 ヨーロッパ図 pp. 10-11.
第3章 ポルトガル図 pp. 11-21.
第4章 スペイン図  pp. 21-49.
第5章 フランス図 pp. 49-103.
第6章 イングランドスコットランドアイルランド図 pp. 103-144.
第7章 ネーデルラント図 pp. 144-204.
第8章 スイス図 pp. 204-224.
第9章 イタリア図 pp. 224-292.
第10章 ドイツ pp. 292-469.
第11章 北方諸王国(デンマークノルウェースウェーデン) pp. 470-494.
第12章 ポーランド pp. 494-514.
第13章 モスコヴィアまたはリュスランド pp. 515-531.
第14章 ハンガリー、ヨーロッパ・トルコ pp. 532-569.
第15章 ギリシア pp. 570-584.
第16章 アジア(アジア・トルコ、ペルシア、東インド、大タルタリア、中国、アジア諸島)pp. 585-631.
第17章 アフリカ pp. 631-650.
第18章 アメリカ pp. 650-670.
第19章 未詳の諸国 pp. 671-676.
[第?部]地球儀の知識解説 pp. 677-709.
[第?部]本書の活用法 最良地図抜粋目録および後書き pp. 710-764,
索引 (59) pp.