渡辺崋山旧蔵蘭書(3)

[6] アンソン(人名)世界一周紀行<書>  一冊
(続)本書の第3版(1765)は阿蘭陀通詞楢林重兵衛旧蔵本が平戸藩楽歳堂文庫(松浦静山旧蔵)につたわっています。初版(Amsterdam, Isaak Tirion, 1748)は江戸幕府旧蔵書として国会図書館に伝わっていますが、今では、Google Gook Search でローザンヌ大学蔵本を閲覧できます。http://books.google.co.jp/books?id=Z84WAAAAQAAJ&printsec=frontcover&dq=Georges+Anson&lr=&as_brr=3#PPP1,M1


[7] <ゼオガラヒー>地理書 欠本 17LXI ビュッシング著 六冊
ゲッチンゲン大学哲学教授アントン・フリードリッヒ・ビュッシングAnton Friedrich Büsching(1724-1793)著『新地理学』の不揃い本です。『江戸幕府旧蔵蘭書目録』(日蘭学会、1980)に、この崋山旧蔵書と同じ6冊の不揃い本(国会図書館所蔵、蕃書調所旧蔵本)が記載されています。

私は未見ですが、同目録の記載によれば、 Nieuwe geographie, of aardrijksbeschrijving. (...) Naar den vierde Druk (...) uit het Hoogduitsch vertaald door Jacobus de Jongh junior. ’s Hage, Amsterdam, Utrecht, 1761-1777. 6 vols.です。冊数の符合は偶然でないかもしれませんので、国別の内訳を上記の目録の記載によって訳しておきます。
第1巻第1冊(1761):デンマークノルウェースウェーデン
第1巻第2冊(1761):ロシア、プロイセンポーランドハンガリー、ヨーロッパ・トルコ
第4巻第1冊(1773): オランダ総説
第4巻第3冊(1775):ゼーラント州、ユトレヒト州、フリースラント州
第4巻第4冊(1776):オーフルエイセル州、フローニンゲン州、ドレンテ
第4巻第5冊(1777):オランダ連合国支配下のフランドルおよびブラバン

 私が閲覧した東北大学狩野文庫本は古渡り本で、「籌海庫」の蔵書印をもつ7冊本です。この蔵書印の由来は未詳です。この7冊本の内訳は、
第1巻第2冊(1761):ロシア、プロイセンポーランドハンガリー、ヨーロッパ・トルコ
第2巻第1冊(1762):ポルトガル、スペイン、フランス
第2巻第2冊(1763):イタリア、イギリス
第3巻第1冊(1764):ボヘミアモラヴィア、ラウジッツ、シュレジア、オーストリア・クライス
第3巻第2冊(1764):ブルグント・クライス、ウェストファリア・クライス、選帝ライン・クライス
第3巻第3冊(1765?):上ライン・クライス、シュワーベン・クライス、バイエルン・クライス、フランク・クライス
第3巻第4冊(1766):上ザクセン・クライス、下ザクセン・クライス、リッダー・クライス

揃い本は、装丁によって冊数がまちまちのようです。ティーレ『オランダ地理学・民族誌目録』Tiele (1884)は5巻15冊本(1761-79)、アムステルダム大学online catalog は9冊本(17 stukken in 9 bdn, 1761-79)を載せています。


[8] ウェイランド学語辞書 壱冊
ウェイラント『術語辞典』Petrus Weiland (1754-1842), Kunstwoordenboek.はラテン語、フランス語など外国語から借用された学術用語の解説辞典です。初版はハーグ版とロッテルダム版があり、いずれも1824年刊行です。1832年にその補遺1冊がドルトレヒトおよびロッテルダムで出版され、1843年に補遺を統合した版がアントワープで出ます。1846年に第2版と銘打った統合版がドルトレヒトで出ます。最終版は1858年版(ドルトレヒト)です。崋山旧蔵本はおそらく初版(1824)でしょう。
Google Book Searchでは1843年版が読めます。
http://books.google.co.jp/books?id=MigUAAAAQAAJ&printsec=frontcover&dq=kunstwoordenboek&lr=&as_brr=3


[9] 諸学手引之書 欠本 巻三 Algemene ofen school
このオランダ語タイトルの書き入れによって、原書は『学芸入門叢書』Algemeene oefenschoole van konsten en weetenschappen. Amsterdam, Pieter Meijer, 1763-1782. 31 vols.の「巻三」と思われます。この叢書は6部30巻(6 afdelingen, 30 delen)および索引1巻からなります。部立ては第1部「哲学」(3巻)、第2部「博物誌」(3巻)、第3部「文芸」(3巻)、第4部「数理科学」(3巻)、第5部「有名の学者略伝」(3巻)、第6部「論文雑録」(15巻)となっており、各部ごとに「巻三」に相当する「Derde deel」があることになります。

本書はベンジャミン・マーチン『学芸文庫』Benjamin Martin, The general magazine of arts and sciences, philosophical, philological, mathematical and mechanical. London, Owen, 1755-1765.のオランダ語版です。この英語原書は未見ですが、オランダ語版『学芸入門叢書』は三河田原藩藩校「成章館」の旧蔵書が不揃い本ながら、田原市博物館に伝わっております。

そこで、各部の「巻三」のタイトルの関係部分を田原本によって、抜き書きしてみます。
第1部第3巻(1782):青年男女のための哲学対話または自然の御業についての連続的考察(De wysbegeerte voor jonge Heeren en Jufferen, of achtereenvolgende beschouwingen van de werken der natuur)
第2部第3巻(1782):地球の自然誌(De natuurlyke historie des aardryks)
第3部第3巻(1782):非数理的な、文芸の名のもとに知られる諸学(De weetenschappen die niet wiskonstig, en onder den naam van fraaije letteren bekend zyn)
第4部第3巻(1782):数理科学および関連諸学(De wiskonstige weetenschappen en ’t geen tot dezelve behoort)
第5部第3巻(1782): 遙かな古代より現代に至る輝かしく最も名高い学者の略伝(Eene beknopte leevensbeschryving der beroemste wysgeeren, die van de vroegste oudheid tot den tegenwoordigen tyd gebloeid hebben)
第6部第3巻(1763):才知、技芸、学識などによる論文雑録(Mengelwerk van vernuft, konst, geleerdheid, enz.)

崋山旧蔵の「巻三」がどれにあたるのかは、分かりません。田原本のように、装丁の段階で背表紙に一連の巻数が記されていたたとすれば、第1部第3巻の可能性が高いでしょう。

この第1部第3巻に対応する英語原書(Stanford University Library蔵書)

The Young Gentleman And Lady's Philosophy In A Continued Survey Of The Works Of Nature And Art; By Way of Dialogue. Volume III. A Survey of the Principal Subjects of the Animal, Vegetable, And Mineral Kingdoms. Illustrated by Nineteen Copper-Plates. By Benjaminn Martin.
London, Printed for W. Owen, (...)and the Author (...). MDCCLXXXII[1782].

Google Book Searchで読むことが出来ます。

http://books.google.co.jp/books?id=z3gKAAAAIAAJ&printsec=frontcover&dq=Benjamin+Martin&as_brr=3#PPP9,M1