渡辺崋山旧蔵蘭書(5)

[13] クェトレット星学書<ロバルト天文書> 同 弐冊

ケトレ『天文学基礎』蘭訳。本書はベルギーの統計学者として名高いケトレLambert Adolphe Jacques Quételet(1796-1874)が統計学者として活躍する以前に著した天文学入門書です。

私は日本最初の西洋哲学史要綱ともいえる高野長英「西洋学師ノ説」の典拠を八方手を尽くして探していますが、まだわかりません。『学芸入門叢書』Algemeene oefenschoole van konsten en weetenschappen. の第5部「有名の学者略伝」(3巻)などが有力候補と思い、田原本を調査したのですが、種本とは認められませんでした。崋山の旧蔵書ケトレ『天文学基礎』蘭訳も候補のひとつですので、オランダの古書店から取り寄せてみました。仮綴じの2冊本です。
 Gronden der sterrekunde. Door A. Quételet, Hoogleeraa in de Wis- Natuur- en Sterrekunde aan het Koninklijke Atheneum te Brussel. Uit het Fransch vertaald en met aanteekeningen verrijkt door R. Lobatto. Eerste[-Tweede en laatste] stuk. Amsterdam, G. Portielje, 1827[-1829].

本書の蕃書調所旧蔵本が『江戸幕府旧蔵蘭書目録』(日蘭学会、1980)に記載されています。著者はこのとき、ブリュッセル王立アテネウムの数学・理学・天文学の教授です。本書のフランス語原書はAstronomie élémentaire. Paris, 1826.蘭訳者はロバットRehuel Lobatto(1797-1866)。

本書第2冊の巻末に、天文学者をアルファベット順に並べた「古今天文学者略伝」Biographische aanteekeningen nopens eenige voorname oude en hedendaag[sche] sterrekundigenを見出しましたが、「西洋学師ノ説」の典拠ではありませんでした。

さきに紹介した小目付小笠原貢蔵らの報告書(文書「渡辺登蘭書一件」)において、天保10年の春先に天文方が長崎から取り寄せようとして不用になった「天学書二冊」とあるのは本書のことと思われます。