渡辺崋山旧蔵蘭書(6)

[14] 文学之叢書<千八百二十刊行>メンゲルウェル <壱>七冊
       但天文地理文章等之雑記ニ御座候
『オランダ学芸雑誌』Vaderlandsche letter-oefeningen, of tijdschrift van kunsten en wetenschappen. Amsterdam, 1814-1876. の1820年刊行分の端本と思われます。この雑誌は年32号発行されていました。「オランダ国内その他で日々刊行される書籍、論文の書評、論評ならびに文芸・技芸・学術関係の論著雑録」という副題が付けられており、標題紙上でMengelwerk(雑録)の文字がとりわけ大きく目立つため「メンゲルウェル[ク]」と記されたのでしょう。Google Book Search(以下、GBSと略す)によって、実際の刊行形態をみますと、第1部書評(Boekbeschouwing)の部16号と第2部雑録(Mengelwerk)の部16号の計32号が、2部立てでそれぞれ独立した頁付けのもとに刊行されています。製本も各部1冊に合綴されています。
GBSで1820年版を検索しますと、ミシガン大学図書館Dutch History Fund本の第1部
http://books.google.co.jp/books?id=Ekk3AAAAMAAJ&pg=PA694&dq=Vaderlandsche+letter+oefeningen+1820&lr=&as_brr=3#PPP1,M1
およびゲント大学本の「Tweede stuk voor 1820. Mengelwerk」(1820版第2部 雑録)を閲覧できます。
http://books.google.co.jp/books?id=378WAAAAQAAJ&pg=PA493&dq=mengelwerk+1820&lr=&as_brr=3#PPR8,M1

山路弥左衛門提出のこの目録記載にある「七冊」がどのような構成であったかは不明ですが、見せ消ちになっている1820年版の7号分であったように推測されます。


[15] 阿蘭陀芝居之番附   小本  壱冊
天保10年5月、本目録を天文方山路弥左衛門の命をうけて作成したのが宇田川榕菴と杉田立卿、成卿父子であったこと、文政3年(1820)10月に出島で上演された「阿蘭陀芝居」のひとつ「弐人猟師乳汁売娘」について、「宇田川榕菴自筆 貳人猟師乳汁売娘 蘭語原本」(早稲田大学中央図書館所蔵)が伝わっていることを考え合わせると、この崋山旧蔵書「阿蘭陀芝居之番附 小本 壱冊」は宇田川榕菴が筆写した原本である可能性があります。

宮永孝「文政三年のオランダ芝居―川原慶賀筆「阿蘭陀芝居巻」について」http://ci.nii.ac.jp/naid/110006199982/
の「資料二」に、宇田川榕菴自筆写本の冒頭6ページ分の写真が翻刻をそえて紹介されています(翻刻オランダ語写本でij、nと区別するためにy、uの上につけられる符号をそのまま翻刻に再現しているのが気になります。符号を省略して翻刻するのが普通と思います)。慶應義塾大学附属図書館所蔵のフランス語原書 Louis Anseaume, Les deux chasseurs et la laitière, comédie en un acte.も写真版で示されていますが、ここでは触れません。

榕菴の写した原本は今ではGoogle Book Searchで、ゲント大学図書館蔵本(2008年6月11にデジタル化)を簡単に閲覧できます。
http://books.google.co.jp/books?id=owYUAAAAQAAJ&printsec=titlepage&as_brr=3&source=gbs_summary_r&cad=0#PPP7,M1

これによって原本を記載しましょう。
De / Twee Jaager / En Het / Melkmeisje, / Kluchtspel; / Met Zang. / Gevolgd Naar Het Fransche, / Door / P. F. Lynslager. / (fig.) / Te Amsteldam, by /J. Helders en A. Mars, in de Nes. 1783. / Met Privilegie.
8vo. 37 pp.
標題紙の意味は「二人の猟師と乳売り娘 笑劇 歌詞付き。フランス語原作によりP. F. レインスラーヘル編訳。アムステルダム、ネス街、J.ヘルデルス、A.マルス書店、1783年刊、官許」となります。

榕菴は写本第1ページに、原書のハーフタイトル De Twee Jaagers En Het Melkmeisje.を写していますが、Williamの名も書き添えています。原本の所蔵者がハーフタイトルページに書き込んだ署名をそのまま写したと思われます。原本標題紙のカットおよび標題紙裏の出版許可証の一部は写されていません。Williamのサインのある舶載蘭書をみた記憶があるのですが、残念ながら思い出せません。ノートのどこかに書き留めたかもしれませんので、後考を待ちたいと思います。

なお、Google Book Searchでは、オランダ語版の初版(アムステルダム、1778)も同じくゲント大学図書館蔵本の電子版が収録されています。こちらは口絵銅版と演劇愛好協会会員への訳者の献辞がついています。
http://books.google.co.jp/books?id=oQYUAAAAQAAJ&printsec=frontcover&as_brr=3&source=gbs_book_other_versions_r&cad=1_2#PPP1,M1