Google Book Searchからの引用

今年も自分の専門に隣接する分野の修士論文や課程博士論文の副査をいくつか頼まれました。その中に、日本では閲覧不可能と思われる19世紀前半の英文雑誌を写真入りで引用している論文がありました。写真が妙に不鮮明ですので、学生にどこで閲覧したのか尋ねたところ、「Google Book Searchに載ってました」との返事。思わず、唖然としました。その論文には典拠の明示がありませんでした。

昨年秋頃から自分もGoogle Book Search(以下、GBS)を活用していますが、まだ論文に引用するに到っておりません。GBSでは欧米の図書館20数館が所蔵する版権切れの古書籍、雑誌を利用できますので、蘭学者、洋学者が使用した洋書(蘭書)の原典(蘭書の多くは仏独英羅などからの翻訳です)を調べたり読んだりするのに大変便利です。もちろん、蘭書もかなりヒットします。とくに書評誌や書誌目録類は大変役立ちます。

あれこれGBSを検索し、必要な文献をMy Libraryに入れたり、単語検索を掛けたりしております。閲覧し始めてすぐ気付くことですが、画像撮影のあと撮影漏れのチェックをほとんどせずに、そのまま公開している形跡があります。ひどい場合はタイトルページ(標題紙)の画像が飛んでいたり、前付けページ(preliminary pages)や本文の一部が欠落していたり、画像が不完全だったりします。折り込みの図版や地図は無視して撮影していません。

原本を閲覧したことのある場合は、GBS画像の劣悪さ(仕方のないことかもしれません)に加えて、撮影時に原本を乱暴に取り扱った様など想像されて(その証拠が画像に残っている例もあります)、気分がよいものではありません。便利であればよい、というわけには行きません。

このように書誌的に多少とも欠陥はありますが、GBSはとにかく使える電子図書館になっています。しかし、これを論文に引用するとなると、いろいろ問題があります。画像を提供した原本所蔵図書館名を挙げて、GBSによることを明記する必要があるでしょう。原本の請求番号や登録番号が画像から判明する場合は、それも付け加えるのがよいでしょう。

それに比べれば、国立国会図書館近代デジタルライブラリーは安心できます。書誌情報も簡にして要を得ています。しかし、杞憂であってほしいですが、GBSが米国図書館所蔵の日本語図書をその物量作戦によって公開するようなことになったら、日本の各種デジタルライブラリーは現状では、ひとたまりもありません。古書業界も大変なことになります。

GBS画像から想像される書物の乱暴な扱いですが、日本の各種電子図書館(まだまだ電子紙芝居程度が多い)をのぞくと、撮影時にさぞや原本をいためたのでは、と心配になる例もあります。最近は撮影機器類の進歩でそのようなことは少なくなっていることを、願わざるを得ません。