日本研究のかげり、その対策

本日3月6日付け朝日新聞夕刊にて、「論説員員室から 日本研究のかげり」との二段記事を読みました。

国際日本文化研究センター(略称、日文研)所長の「をちこち」(国際交流基金刊)寄稿記事(今、読む暇はありませんが)を紹介しつつ、欧米に於ける日本研究拠点縮小の動きに歯止めを、と日本政府、企業に訴えています。

日文研に対する応援記事かと疑いますが、日本財団による英国の12大学に対する日本研究講師ポストの設置を模範例として掲げ、「不況で苦しいのはわかるが、政府も企業も続いて欲しい」と呼びかけています。


この記事を読んでの感想を率直に申し上げます。


論説委員氏は、日本研究のための一次資料を抱え込んでいる旧帝大(この時期の受験界のマスコミ的表現を借りれば、超難関国立大学)の現状が視野に入っていないのでは、と思います。

文系、理工系、医学系を問わず、過去100年以上にわたって蓄積してきた厖大な日本研究のための一次資料(文献資料にせよ、器物資料にせよ、生物標本にせよ)を抱えている旧帝大が、全世界の日本研究者に対して(同じく、国内のすべての研究者にも)、グローバルに所蔵資料を公開する体制を十分に整えていない、という現実があります。

江戸時代の洋学から現代に到るまで輸入学問でやってきた日本の学術体制では、海外の日本研究者に対して、資料へのアクセスを十全に保証する体制を確立してきたか、を問われれば、甚だ心もとない現状があると思います。

卑近な例をあげれば、自分がパスポート一つで海外の図書館で受けた多大なサービスに比して、日本の旧帝大(に限りませんが)の図書館で、海外の研究者がパスポート一つで受けるであろうサービス(実はそれだけでは受けられない多大の障害があります)は語る必要もない、スキャンダラスな事態だと思います。教授の紹介が必要、というのは本当に国際的なスキャンダルです。

こうした現状を何とか改善する方法の一つとして、特に旧帝大の所蔵資料を対象とした電子図書館の充実を訴えたいと思います。国際的な日本研究のために研究資料の電子化を推進し、グローバルな共有をはかる、これこそ、「日本研究のかげり」に対する実質的な対策ではないでしょうか。もちろん、海外の日本学講師ポストを維持増大させることも喫緊の課題ですが。