バスタールト辞書の底本

3月28日以来、日記を休みました。28日は洋学史学会と実学資料研究会の合同研究大会を京都大学で開催。年度の変わり目のこともあり、日記を書く暇がありませんでした。

さて、2009-3-16の「catechismus der natuur(2)」で『バスタールト辞書』(『バスタード辞書』を原音により近い表記に改めます)の底本がメイエル『語彙宝函』第6版(1688)の第1部『外来語』であることを示しましたが、その証明は省略しました。そこで、その要点を書くことにします。

(1)  『バスタールト辞書』の標題紙は、NIEUW-GEDRUCT/BASTAARDT/WOORDEN-BOEK./DOOR/OOYE-SUNNTOO./LEEFARTS VAN/DEN LANDSHEER/NAKATS./(woodcut)/T'JEDO./1822です。「中津藩医大江春塘編 新版外来語辞典 江戸 1822年」という意味です。このタイトル中、「外来」を意味する「BASTAARDT」の綴りが底本となった版種探しの最初の手がかりになります。つまり、原典のメイエル『語彙宝函』は初版(1650)から第12版(1808)までありますが、各版で「外来」に対応するオランダ語の綴りは、初版では「Uytheemsche」、第2版(1654)〜第4版(1663)では「Basterdt」です。第5版(1669)で初めて「Bastaardt」となります。

したがって、第5版以降が底本の候補となります。

(2) Habillé(服を着た)およびHabit(正装)の項目は『バスタールト辞書』見出し語になく、メイエルでは第8版(1720)以降に見られます。

したがって、候補は第5版(1669)、第6版(1688)、第7版(1698)の三種に絞られます。

(3) 『バスタールト辞書』の見出し語Heremyt(隠者)は第5版になく、第6版、第7版いずれもHeremijtの綴りです。

(4) 『バスタールト辞書』の出し語Humilatie(謙譲)は第5版になく、第6版、第7版いずれもHumiliatieの綴りです。

したがって、さらに第6版、第7版の二種に候補が絞られます。

(5) 『バスタールト辞書』の出し語Imititateur(模倣者)は第6版でImititateur、第7版でImitateurとなっています。

(6) 『バスタールト辞書』の出し語Impuissant(無力な)は第6版でImpuissant、第7版でImpuislantとなって います。ここでsはすべていわゆるlong sで印刷されています。

(7) 『バスタールト辞書』の出し語Imputatie(嫌疑)は第6版でImputatie、第7版ではImputieです。

以上の(5)(6)(7)の例から、『バスタールト辞書』の底本は第6版と分かります。

メイエル『語彙宝函』第6版は以下の通りです。

L. Meijers Woordenschat, Verdeelt in 1. Bastaardt-woorden. 2. Konst-woorden. 3. Verouderde woorden. Den zesden Druk. Amsteldam, Hendrik Boom, en de Wed. van Dirk Boom, 1688. 12vo. (24), 791 pp.

以上の調査で使用したライデン大学図書館所蔵本の版種と分類番号は以下の通りです。

第5版[1193G28]、第6版[1193G29]、第7版[1193G30]、第8版[1193G31]、第9版[1193G32]

第10版は松浦史料博物館所蔵本(松浦静山旧蔵本)によりました。第7版は京都大学附属図書館江馬本、第8版は石川県立図書館所蔵本(桂川甫周国瑞旧蔵本)があります。