めづらし、ふしぎ

昨日のつづき。商館長アルメナウルトが麦水の俳句に、「めづらし、ふしぎ」という意味のオランダ語を唐草模様に書き添えたということですが、このオランダ語の原語は何だったのか。蘭癖大名奥平昌高が刊行した日蘭辞書『蘭語訳撰』(文化7年、1810)を引くと、

珎(メヅラシ)   Wonderlyk
珎奇(メヅラシキ) Zeldzaam
奇怪(フシキ)   Wonder
同上        Wonderlyk

とあります。

アルメナウルトが何をもって「めづらし、ふしぎ」と思ったのか不明ですが、おそらく、Wonderlyk, Zeldzaamと書き添えたことでしょう。

まさか「芋名月」(旧暦8月15日の名月)を知っていて、「豚名月とは妙なるかな」と驚いたわけでもないでしょう。

WonderlykとZeldzaam、この二つの形容詞を示されると、近世ヨーロッパの博物学史上かならず言及される奇品室のことを思い出します。奇品室はドイツ語でWunderkammer, 英語でCabinets of curiosities, フランス語でCabinets de curiositésと言うことはよく知られていると思います。オランダ語ではRariteitkamerといいます。
シーボルト・コレクションよりも前に長崎のオランダ商館長が本国に持ち帰った日本コレクション、なかでもヤン・コック・ブロンホフのコレクションが有名ですが、これはたしか、最初は王立奇品室Koninklijk Kabinet van Zeldzaamhedenに収蔵されたと記憶しております。

アルメナウルト商館長が日本の珍品奇物を収集していたかどうか、今は判然としませんが、麦水の俳画を欲しいと思ったかもしれません。しかし、実際は、「めづらし、ふしぎ」と唐草模様でオランダ語を添えてもらった麦水の方が、これを持ち帰り、擦物にして配ったといいます。その擦物が今に伝わるかどうか、知りたいものです。