『新体皇国史』における洋学(1)

板沢武雄著『新体皇国史』(新制版、中学校上級用、昭和16年9月20日修正四版、中等学校教科書株式会社)を古書店より入手しました。この教科書における著者の肩書きは「東京帝国大学教授 文学士」となっています。奥付によれば、この教科書の初版は昭和12年12月8日です。丁度4年後に日本は真珠湾攻撃により太平洋戦争に突入しました。

著者は昭和29年に法政大学文学部で博士号(文学博士)を取得し、その博士論文をもとに出版した『日蘭文化交渉史の研究』(昭和34年、吉川弘文館)は現在でも、洋学史研究者が参照すべき基本的な研究書の一つとなっています。この本の「序にかえて」によって、上記の教科書が出版された頃の著者の履歴をみますと、昭和8年、東京帝国大学文学部講師となり「日蘭関係並蘭学の発達」を開講、昭和13年3月学習院を退官、東京帝国大学助教授として国史学第三講座を担任し、昭和17年5月に教授に昇任。昭和23年1月次官控訴で教職追放になっています。

『新体皇国史』はその書名から分かるように、またその緒言(昭和12年11月、板沢武雄識)に「国体明徴、国民意識の昂揚、及び歴史教育の本義徹底に関しては特に留意して編纂した」とあるように、いわゆる皇国史観にたつ教科書です。「既に学習した東洋史西洋史の知識を利用し、諸外国と比較して皇国がその国体、国家の体制、文化の発達において如何なる特異性を有するかを明確にせんことを期した」ともあります。

このような皇国史観において、江戸時代の洋学はどのように記述されているのか、それを知りたくこの教科書を購入したわけです。